* おっぱいのこと ( 利点 / 強化 / 搾乳 / 大事なこと / 搾乳器 / 乳頭痛の予防 / 乳腺炎のこと / 搾乳ダイアリー / 関連サービス / お役立ち情報 )
母乳の利点
早く小さくうまれた赤ちゃんにとって、母乳はいちばんの栄養です。
エネルギー量(カロリー)、タンパク質、ミネラル、脂質などが早く小さくうまれた赤ちゃんの成長や消化能力に適したバランスになっています。
母乳は赤ちゃんの感染症を予防する効果があります。特に、出産後2-3日間に分泌される初乳は免疫力を高める物質を多く含んでいるといわれます。
また早くうまれた赤ちゃんのお母さんの母乳には、オメガ3系・6系とよばれる「必須脂肪酸」が特に多く含まれ、脳や目(網膜)の発達を促すといわれています。
おっぱいのなかでも、しぼったときの後半のおっぱいを「後乳」といいます。「後乳」は脂肪が多くカロリーが高いため体重が増えやすいほか、「必須脂肪酸」も豊富です。
母乳育児をすることは、お母さんの産後の子宮の回復を促すことも報告されています。
* 母乳育児の効果 (母乳で育てる場合に、人工乳で育てる場合と比べて低下するリスク)
- 子どもにとって
-
感染防御効果
- 中耳炎 23%
- 反復性中耳炎 77%:(母乳育児6ヶ月以上で低下する率)
- RSV重症化74%(母乳育児4ヵ月以上で)
- 肺炎 72%(母乳育児6ヵ月以上で)
- 腸炎 64%
免役制御
- 1型糖尿病 30%
- 炎症性腸疾患 31%
- アトピー性皮膚炎 27%
- 乳幼児突然死症候群 36%
- 白血病 15-20%
- 肥満 24%
- 2型糖尿病 40%
早産児にとっての効果
- 消化吸収を助ける
- 乳糖分解酵素活性を高める
- 経腸栄養の確立が早まる
- 疾病予防(壊死性腸炎,重症感染症,未熟児網膜症の重症度低下)
- 神経発達の促進
- 母親にとって
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12ヵ月以上授乳すると低下する率
- 糖尿病 20%
- 高脂血症 19%
- 高血圧 12%
- 心血管疾患 9% (24ヵ月以上で42%)
母親にとっての効果
- 産褥出血減少
- 子宮復古促進
- 自然の避妊効果
- 妊娠前体重への復帰促進
- 閉経前の乳癌,卵巣癌のリスク低下
- 閉経後の骨折,骨粗鬆症のリスク低下
- 家庭・社会にとって
- 家庭にとっての効果
- 人工乳の購入・調乳の出費が減る(1日あたり〜400円)
- 病気で入院することが減り、入院費の節約に
社会にとっての効果
- 雇用主にとって:欠勤が減り,効果的な人事管理ができる
- 医療保険負担の軽減
- 防災対策 (災害時に強い地域つくり)
- 保健医療費の節約
AAP2012, Schwarz EB, Obst Gynecol 2009; 113:974, 母乳育児支援ガイド2009 KCMC母乳育児支援WG、大山牧子作成
* 参考動画:「母乳育児のメリット(10:06)」
母乳の強化
赤ちゃんの体重が急激に増える時期には、タンパク質やカルシウム、リン、鉄などが不足することがあります。母乳を強化するパウダー(HMS−1という粉末)や鉄分のシロップなどをあわせて使用し補います。
搾乳のこと
* 搾乳量を十分に保つポイント(2014)
- 産後時期
- 効果があると証明されたこと
- 初期分泌の頃
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- 産後1時間以内に搾乳開始(Parker2010)
- 痛みを伴わない頻回搾乳(手による搾乳±電動搾乳器で24時間に8-11回)(Morton2009)
- 産後48時間は手による搾乳の方が電動搾乳器より搾乳量が多い(Ohyama 2010)
- 日齢4頃〜2週
-
- 快適な搾乳方法で7回以上(Morton 2009)
- 電動搾乳器を使うときは手による搾乳を追加(Morton 2009)
- 2週〜
-
- 搾乳回数は5回以上
- 搾乳方法はお母さんが快適なものを(Becker2011)
- 時間毎ではなく、生活のリズムで
- 搾乳前にはリラックスできる工夫を(20分の音楽、場所、飲み物など)
- 睡眠時間は十分に(7時間前後) (Morton2009より類推)
- 搾乳器使用時はハンズオンポンプ*
*ハンズオンポンプ:電動搾乳器で搾乳しながら同時に空いた手で乳房を押して乳汁の流れが最大になるところで圧迫を続ける。
流れがゆるやかになったら、別の場所を探す。この方法で搾乳量平均1.5倍に。
- すべての時期
-
KCMC母乳育児支援WG、大山牧子作成
* 参考動画:「産後の時期別の搾乳のポイント(10:31)」
産後は「母乳をつくるホルモン」(プロラクチン)は出産のときが一番高く、その後2〜3時間ごとの搾乳を続けるたびに上昇します。搾乳しないでいると、2週間で妊娠前の値までにさがってしまいます。
お母さんのからだのつらい時期でもあるのですが、なるべく早く(できれば産後1時間以内から)搾乳をはじめることが大切です。
産後早期(はじめの3日)は1-2時間ごとに搾乳をすると初乳が効果的に出され母乳を作るスイッチが入りやすいです。
この時期は、手で搾乳するほうが電動搾乳器よりも効果的といわれています。電動搾乳器の「早産児モード」を使える場合は、あわせて利用しましょう。
産後4日から2週間は1日7回以上搾乳すると良いと言われています。電動搾乳器を使用する時は、電動搾乳器での搾乳をしながら同時に空いた手でおっぱいを圧迫しながら行うと分泌が1.5倍増えるというデータがあります。
産後2週間以降は、時間毎の搾乳ではなく、お母さんの生活のリズムにあわせて搾乳をします。お母さんが休息したり睡眠をとることも大切なので、頑張りすぎないようにしましょう。ただし、搾乳回数は1日5回以上をキープしましょう。
搾乳間隔をあけると一時的に分泌量が増えるように感じるかもしれませんが、おっぱいは店じまいモードに入り、次第に一日あたりの分泌量が減ります。4回以下にはしないようにしましょう。
おっぱいが痛くなったり、搾乳が辛いと感じるときには、遠慮なくスタッフにご相談ください。
また当院ではお母さんのおっぱいについてのご相談をお受けするいくつかの窓口があります。
(詳しくは「
利用できる母乳育児関連サービスのご案内」へ )
休息・睡眠・リラックスが大事
「つくられた母乳を乳管におしだすホルモン」(オキシトシン)は搾乳の刺激や赤ちゃんが乳頭を吸う刺激で分泌されるだけでなく、お母さんが赤ちゃんの姿を見たり、写真をみて赤ちゃんのことを考えたりするときにも分泌されます。オキシトシンはお母さんの産後の痛みを和らげ、赤ちゃんを大好き!と感じるホルモンです。
面会中に赤ちゃんと一緒に過ごしているとおっぱいがはってくるかもしれません。
お母さんがリラックスするとより分泌されやすくなるので、家族に優しくねぎらってもらったり、好きな音楽を聞きながら搾乳するのもよいでしょう。
温かいお風呂や肩のマッサージで血流を良くすることも有効です。
電動搾乳器のこと
手による搾乳を続けると肩こりや腱鞘炎になることがあります。
1ヶ月以上赤ちゃんが入院する場合は、病院基準の電動搾乳器を使うと楽になる方が多いです。これから電動搾乳器を使いたい場合や、電動搾乳器を選択されて不都合がある場合は、当院の
母乳育児関連サービスの利用をおすすめします。
電動搾乳器使用時にみられる乳頭痛の予防
お母さんの乳頭の痛みを予防するために、いくつかの対策があります。
こちらをご覧下さい。
搾乳のたびに痛みがあると、お母さんは辛くなってしまいます。
我慢せずにご相談ください。
* 電動搾乳器使用中にみられる乳頭痛の予防と対策
- 電動搾乳器を使用する前に乳房マッサージをして搾乳し始めましょう。ポンプ中もマッサージしてもよいでしょう。
- カップのフィットが適切かどうか調べる。サイズのカップを試してみましょう。カップが乳輪と乳頭の境に圧をかけていないか。通常のサイズは口径24mmです。メデラパーソナルフィットには21,27,30,36mmがあります。ローソン売店でも購入可能。
- 搾乳スケジュールをかえてみましょう。
搾乳時間を短くし,回数を増やす。
圧を最低にしてみる。
- 搾乳後,母乳,または純度の高いラノリン(ランシノーTM,ピュアレーンTM)を塗布するのもよいでしょう。
- 以上をしても痛みがとれない場合,乳頭痛がなくなるまで手による搾乳に切り替えてみましょう。
(神奈川県立こども医療センター育児支援外来 大山,Walker,2002, p594参照)
直接授乳開始後の乳頭痛の予防
直接授乳のときにおっぱいに痛みがある場合は、赤ちゃんの抱きかた、ふくませかたを確認しましょう。
病棟でスタッフに声をかけてください。
適切な抱きかたやふくませかたの詳細は、以下をご覧下さい。
*
「上手な抱き方とふくませかたについて」(日本ラクテーション・コンサルタント協会のページへ)
* リラックス授乳のレシピ(赤ちゃん主導の吸着)
- 準備
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- お母さんとスタッフともにある程度の時間がある
- 落ち着いて心地よく過ごせる場所がある
- お母さんと赤ちゃんが上半身の衣服を脱ぐ(赤ちゃんはオムツだけ)/ごく薄着になる
- お母さんはベッドに横になる/ゆったり椅子に座る/立っている
- お母さんが安心しリラックスする
- 赤ちゃんを抱く
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- お母さんはただ抱っこする
- お母さんと赤ちゃんの体が常に触れ、肌と肌がピッタリ触れ合う
- カンガルー抱っこのように両胸の間に抱いてもよい
- 赤ちゃんの顔を必ずしも乳房に近づけなくてもよい
- 赤ちゃんを落ち着かせる
-
- お母さんは赤ちゃんに話しかけ/眼と眼を合わせ/心を通わせ/楽しむ
- 肌と肌/胸と胸/心と心を合わせる
- 赤ちゃんの口は乳房から離れてもよい
- ベビータイムを楽しむ
- 赤ちゃんが探し始める
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- 赤ちゃんがどちらかの乳房に向かって動き始めたら、お母さんは赤ちゃんが上半身を動かすのを手伝い、お母さんの腰のあたりで赤ちゃんのお尻を安定させながら、赤ちゃんのリードに従う
- 赤ちゃんが自分で移動して、自分の身体をお母さんに対して斜め45度くらいに持っていくこともある
- お母さんが赤ちゃんを脇に抱えているとすれば、赤ちゃんの身体はお母さんのウェストに巻き付いたようになり、お尻はお母さんの背中あたりにくる
- 赤ちゃんの頸部と頭部を固定しないように気をつけ、頸部と肩を軽く手を添える程度に支えて赤ちゃんの頭が後ろに傾けられるようにする
- 鼻は乳頭の方に向いて、頭はわずかに後ろに傾く
- 頬はいつも乳房に触れた状態で、赤ちゃんが乳房の上を移動していく
- 赤ちゃんの下顎も乳房に触れている
- お母さんは赤ちゃんに声をかけて落ち着かせ、励まし、赤ちゃんをなでたりアイコンタクトを取ったりする
- 赤ちゃんが緊張したら、最初の抱き方に戻す
- 赤ちゃんが片方の乳房の方に向かって動いたら、赤ちゃんのリードに従い、それを楽しむ
- お母さんも赤ちゃんも落ち着いている
- 赤ちゃんが乳房をとらえてラッチ・オンする
- 適切なラッチ・オンのポイント
-
- お母さんと赤ちゃんが心地よいこと、効果的な吸啜がなされていること
- お母さんが少しでも痛みを感じたら、適切なラッチ・オンとはいえない
- ポショニングとラッチ・オンが見かけ上適切に見えても、実際に適切かどうかわからない
- 直接授乳を開始した最初の数日の痛みは、たいていは適切でないラッチ・オンとポジショニングの徴候である
(Smillie CM. How infants learn to feed: A neurobehavioral model, in supporting sucking skills in breastfeeding infants, Genna CW, Boston, Jones and Bartlett Publishers, 79-96,2008 水井雅子訳/大山牧子一部改)
※表のなかにある用語の意味
ラッチ・オン:赤ちゃんがおっぱいをふくもうとする唇や舌の動きや、お母さんが赤ちゃんにおっぱいをふくませる一連の動作
ポジショニング:授乳のときの赤ちゃんとお母さんの姿勢や身体の向き方
* 参考動画:「リラックスして行う授乳のポイント(5:33)」
乳腺炎のこと
授乳や搾乳をなんらかの理由で急に中断するなど、乳汁のうったい(乳汁がおっぱいに長時間たまること)があると、乳腺炎をおこすことがあります。
乳腺炎は乳房が熱をもったように熱く腫れたり、38.5°以上の発熱、悪寒、身体の痛みを伴います。
症状の重さによって抗菌薬による治療が必要なこともあります。予防や改善のためには定期的にしっかり乳汁がとりのぞかれることが大切です。
きついブラジャーが乳房を圧迫することや、疲労・ストレスも乳汁のうったいをおこす要因となります。
定期的な搾乳を継続していた場合にも、いつのまにか乳汁の分泌が多くなりすぎていて搾乳しきれず、乳汁のうったいがおこることもあります。搾乳を頑張っていたのになんで痛いの、と思うかもしれません。
搾乳後すぐにおっぱいがつよく張ってきて痛みがあるようなときには、我慢せずに搾乳の量や方法についてご相談ください。
搾乳ダイアリーの紹介
利用できる母乳育児関連サービスのご案内
当院での、母乳育児支援に関しては下の3つが利用できます(予約必要、有料)。
- 「母乳外来」 予約制(月火金14時から15時半)当院出産の産後1ヵ月までのお母様対象
- 母乳に関する個別相談、「乳房トラブル」「直接授乳で母乳が飲みとれているか」、「お子さんの体重増加が心配」「電動搾乳器の使い方」などに応じます。
- 予約制:産科外来窓口または電話。お母様ご自身の一ヵ月検診まで。
- 受診料:再診料 3380円
- 場所:周産期棟1F母性外来
- 担当:担当助産師
- NICU母乳外来 予約制(不定期:13時から16時、1時間。予約はNICU看護師に)
- 搾乳に関する個別相談、「搾乳の方法がわからない、搾乳量が増えない、乳房トラブル」などに応じます。
- 受診料:初回9740円、2回目以降 3330円
- 場所:新生児病棟ベビールーム奥
- 担当:助産師
- 育児支援外来 予約制(毎週火曜日、10時から15時、お母様のみ30分、お母様とお子様60分)【 2021.06.01 情報更新】
- 対象:どなたでも
- 予約方法:
- お母様がすでに当院の診察IDをお持ちの場合:
本人またはお子さんの主治医から併診依頼。
予約は主治医または看護師が行う。「育児支援外来枠」で親子セットまたはお母様だけ。
- お母様が当院のIDをお持ちでない場合、7番窓口からまたは電話で地域医療連携室に予約
(この場合はIDのあるお子さんの予約も地域医療連携室がします)
- 受診料:(保険診療):お母様分自己負担;初診 1,400円、再診 670円、
お母様が当院初診時のみ紹介型病院加算5500円追加。お子様分は自己負担なし
- 場所:本館1階 B-14ブース
- 担当:新生児科医
- 内容:
- 「母子分離での母乳の出に心配がある」
- 「病気を持つお子さんの母乳育児(直接授乳で飲みとれているか) (お子さんの体重増加不良)についての心配など」
- 「お母様の病気やくすりを使う際の授乳の心配」
- 「職場復帰後の授乳相談」
- 「乳腺炎の再発予防」
など母乳育児に関わる全てのご相談。
- 国際認定ラクテーション・コンサルタント資格を持つ医師による保険診療による個別相談。母乳分泌促進薬の処方可。
- ※なお、お母様の診療は心身医学療法対応とさせていただきますので、医療費明細に慢性胃炎(心身症)、睡眠障害(心身症)、頭痛(心身症)などの記載が入ることをご承知おきください。
※全ての診療日時・診療費は変更することがあります。
お役立ち情報
そのほか搾乳をしているお母さんに役立つ情報です。
- サイトのご紹介
- 書籍のご紹介
- 「だれでもできる母乳育児(ラ・レーチェリーグインターナショナル,メディカ出版)」
母乳育児中におこるさまざまな疑問、心配について科学的根拠に基づいて詳しくわかりやすく書かれています。
- 「おっぱいでらくらくすくすく育児 母乳のほうが楽だった?(北野 寿美代著,メディカ出版)」
退院後の授乳のヒントがたくさんのっています。イラストも豊富で読みやすいです。
- 「母乳育児のすべて(米国小児科学会編,平林円訳,藤村正哲訳)
母乳育児をするお母さんの疑問やトラブルについて解説されています。
- 「シアーズ博士夫妻のベビーブック(ウイリアム・シアーズ/マーサ・シアーズ著, 主婦の友社)」
赤ちゃんを中心にして家族が楽しくくらすヒントなど
お役立ち情報満載です。