早く小さくうまれた赤ちゃんに おこりやすい合併症のこと
生後まもなくおこりやすい合併症
( 呼吸のこと / 心臓のこと / 脳のこと / おなかのこと )
呼吸のこと「新生児呼吸窮迫症候群(RDS)」
赤ちゃんは胎児期(お母さんのおなかのなかにいるとき)は羊水に包まれており、肺で呼吸をしていません。
産まれるとすぐに肺を使って呼吸をしなければなりませんが、早く産まれた赤ちゃんは、肺の準備がまだ整っていません。
肺で酸素や二酸化炭素を交換するためには「肺胞(はいほう)」がふわっと膨らむ必要がありますが、早く産まれた赤ちゃんではうまく膨らまないことが多いのです。
充分に肺胞が膨らむのを助けるための薬「サーファクタント」を補充したり、「人工呼吸器」による呼吸の調整が必要です。
赤ちゃんの肺は日がたつにつれて徐々に成熟していきます。成長にあわせて人工呼吸器によるサポートを調整し、減らしていきます。
心臓のこと「動脈管開存症(PDA)」
出生後に通常閉鎖する「動脈管」が閉鎖せず開き続けている状態のことをいいます。
赤ちゃんには胎児期(お母さんのおなかのなかにいるとき)だけの特別な血管(動脈管)があります。
「動脈管」は心臓から全身へ酸素を多く含んだ血液をおくる「大動脈」と、心臓から肺へ酸素が少ない血液をおくる「肺動脈」をつないでバイパスする血管です。
なぜこのようなバイパスがあるのでしょうか。
胎児期は肺で呼吸をしていないので、心臓から肺へむかう分の血液も動脈管をとおって大動脈へ合流し、全身へ流れます。
これは胎児期に効率的に全身に血液を循環させる仕組みです。
赤ちゃんが産まれ肺で呼吸をはじめると動脈管は不要になるので、自然と閉じます。
しかし、早く小さく産まれた赤ちゃんでは、閉じるべき動脈管がうまく閉じないことがあります。
動脈管が閉じないと、全身に流れるはずの血液の一部が肺にむかって逆流し、肺や心臓に負担がかかります。
加えて、大切な臓器(腎臓、腸、脳など)への血液のながれが不十分になります。
そのため心臓や肺の負担を軽くする薬や、動脈管が閉じやすくなるための薬を使うことがあります。
薬の効果がない場合には手術をすることがあります。
詳しくはこちらもあわせて参照してください。図を用いて解説されています。
「
未熟児動脈管開存症 Minds版やさしい解説 」へ
脳のこと「脳室周囲白質軟化症(生後2週〜1ヶ月ごろ)」
脳の血流を調節する働きが未熟であるために、未熟児特有の脳梗塞のような状態がおこることがあります。
出生前後の時期、全身の血のめぐりが悪くなるような状態が影響するといわれています。
脳の深いところにある「脳室」のまわりがダメージをうけやすい部分であり、ダメージをうけると運動麻痺(手足がうまく動かせない)の原因になります。
超音波検査ではっきりしてくるのは生後2週頃からです。また超音波検査で見つからないこともあるため退院前にはMRIを撮影します。
「脳室内出血:未熟児特有の脳の出血」
赤ちゃんの脳の血管は未熟でもろく、特に生後3日間は出血がおこりやすい状態です。
出血がおきないよう、血液のながれ・血圧が安定するように努めます。
赤ちゃんがストレスを感じると血圧が変動することがあるため、入院後まもなくは赤ちゃんが眠たくなり、苦痛を感じづらいように鎮静薬を使うことがあります。
保育器のなかでも赤ちゃんがなるべくリラックスできる姿勢になるよう工夫をしています。
お母さんのにおいのするカンガルーガーゼには赤ちゃんがリラックスする効果があります。
おなかのこと「壊死性腸炎
・胎便性イレウス・消化管穿孔」
赤ちゃんの腸のうごきは未熟であり、腸の血流を調節する力や、感染を防御する力も未熟です。
そのためうまく母乳を消化できなかったり、うんちがでなくなってしまうことがあります。おなかのトラブルには以下のようなものがあります。
- 「壊死性腸炎」;腸の細胞への血流が悪くなり腸が壊死(えし:くさってしまうこと)してしまう。
- 「胎便性イレウス」;胎児期につくられた便がでず、硬くかたまってしまう。
- 「消化管穿孔」;壊死性腸炎や胎便病などにともない、腸にあながあいてしまう。程度により手術が必要なことがあります。
母乳は消化がよく、さまざまな感染を防御したり腸の動きを促す働きがあるため、未熟な腸にとても適した栄養です。
上記のようなトラブルをおこさずに順調に母乳を消化できているか、便がでているかを慎重に観察し、レントゲン検査で腸のうごきを確認していきます。
生後2週間以降おこりやすい合併症
( 呼吸のこと / 眼のこと /血液のこと /骨のこと )
呼吸のこと「未熟児無呼吸(出生後〜修正35週くらい)」
赤ちゃんが眠くなったり、おなかがいっぱいになったときなどに呼吸をお休みしてしまう症状を「無呼吸発作」といいます。早くうまれた赤ちゃんではみんなにおこる症状で、呼吸中枢の未熟によるものです。
呼吸を促す薬や、器械によるサポートを行います。
徐々に呼吸が成熟し、修正35週ごろには自然とよくなることが多いのですが、改善する時期には個人差があります。赤ちゃんのペースにあわせて治療を行います。
呼吸のこと「慢性肺疾患(生後1ヶ月ごろ〜)」
肺が未熟であるために、肺が成長する途中で傷んでしまい、酸素が必要な状態が長くつづく状態をいいます。
呼吸を助けるための人工呼吸器や酸素ですが、なるべく肺を傷めないように適切に調整するよう努めています。
症状によっては、退院のときに酸素をもって帰るお子さんもいます。
眼のこと「未熟児網膜症(生後3週〜修正34週ごろ)」
眼の奥にある網膜には、血管が放射状にのび、網膜に栄養をはこんでいます。
この血管は通常、予定日のころまでに網膜全体にのびて完成しますが、早く小さく産まれた赤ちゃんでは血管がうまくのびず、網膜の栄養が不十分になることがあります。
生後3-4週ごろ(修正29-30週ごろ)から定期的に眼科医が診察し、必要に応じて治療を行います。
血液のこと「未熟児貧血(生後1ヶ月ごろ〜)」
早く小さくうまれると、赤血球をつくるためのホルモンが不十分なことや、赤血球をつくるときに必要な鉄が足りなくなりやすいために貧血がおこります。
赤血球は酸素をはこぶ大切な働きをしているため、治療が必要です。ホルモンの補充や鉄剤の内服などのほか、程度によっては輸血を行うことがあります。
骨のこと「未熟児くる病(生後1ヶ月ごろ〜)」
骨を丈夫にするためには「カルシウム」「リン」「ビタミンD」が必要です。早く小さくうまれるとこれらの栄養素が不足しやすく、骨の形成に影響がでます。
予防のためにカルシウムやリン、ビタミンDを補充する内服薬や「母乳強化剤」を使用します。